月別アーカイブ: 2017年1月

「中絶できない時期までほったらかしにしてっ!」

中絶政策転換、米大統領令で助成金禁止

トランプ米大統領は23日、海外で人工妊娠中絶に関する支援を行う民間団体への連邦助成金支出を禁じる米大統領令に署名した。女性の「選ぶ権利」を重視したオバマ前政権の政策を覆し保守色を鮮明にしたhttp://www.sankei.com/world/news/170124/wor1701240010-n1.html

トランプ大統領の言動が毎日のように世界を揺さぶっています。日本のマスコミでは、貿易問題、難民制限、安全保障などが大きく取り上げられていて、あまり目立ちませんが、先日トランプ氏の中絶反対姿勢を反映した大統領令が出されました。

トランプ大統領は、テロ容疑者への水責め拷問を復活させたいと言っている人です。こわもての大統領が人工妊娠中絶に反対するのは、多くの日本人にとって違和感があると思います。

日本社会は、中絶を好ましいものではないが、やむを得ない手段として受け入れていると思います。そして、年間18万件の人工妊娠中絶が合法的に行われています。

慈恵病院が取り組んでいる妊娠電話相談には、次のような相談が寄せられます。

「『堕ろさなければ別れる』と彼氏から言われ困っている」

「娘の付き合っている男がいい加減な人間なので中絶するよう勧めているが、娘が言うことを聞かない」

「産んで育てたいけれど、生活保護を受けているので言い出せなかった。役所に相談したら、『どうして中絶しなかったの?』と怒られた」

「責任を持って育てられないのなら中絶すべき」というのが、日本での一般的な考え方だと思います。

そんな中、「自分では育てられないけれど、大事な命だから、お腹の中の赤ちゃんを殺すことはできない」と、誰にも知らせずに臨月を迎えた女子高生もいました。
ただ、その行動に至る女性は少数派です。

米国民の8~9割がキリスト教徒とも言われています。
キリスト教、特にカトリック教会では、胎児を一人の人間とみなし、中絶を殺人行為として捉えています。中絶反対派の中には過激な人たちもいて、中絶クリニックを放火、爆破したり、クリニックの医師を射殺するケースまで発生しました。
(個人的には、胎児の生命を尊重する人が医師を射殺して良いのか疑問ですが)
トランプ大統領のニュース、改めて日本と米国の違いを考えさせられました。

「じゃあ蓮田は中絶をどう考えるのか?」

私個人は、中絶を希望する女性に反対できません。
中絶せずに産んでくれれば嬉しいです。
事情があって自分で育てられないなら、それでもいいのです。
特別養子縁組を提案します。
それで赤ちゃんの命が救われれば良いと思います。
しかし、妊娠継続と出産を拒否している女性に無理強いはできません。
頻度は低いものの、妊娠・分娩が母体に重大なダメージを与える事があるのを産婦人科医として経験していますので。
また、「育てられない赤ちゃん」が年間18万人、10年で180万人生まれたとき、その養育環境をどう整えるかという問題もあります。

悩ましい問題です。
目下のところは、中絶せずに産んでくれる女性の役に立てるよう、「こうのとりのゆりかご」、電話相談の活動に注力するしかないと思っています。

 

 

養子縁組:10~17歳の9割「養親の愛情を感じている」 – 毎日新聞

7割は自己肯定感高く 専門家、家庭で育つことの重要性指摘  生みの親でなく養子縁組した親と暮らす10~17歳の7割は自己肯定感が高く、9割は親の愛情を感じているとの意識調査結果を、日本財団がまとめた。国が全国の中学3年に実施した調査結果よりそれぞれ割合は高く、専門家は児童養護施設でなく家庭で育つことの重要性を指摘する。

情報源: 養子縁組:10~17歳の9割「養親の愛情を感じている」 – 毎日新聞

赤ちゃんが生まれた瞬間に、涙を流して喜ぶ産婦さんが時々いらっしゃいます。
たまに赤ちゃんのお父さんが泣くこともあります(奥さんは泣いていないのに)。

産婦人科医として分娩に立ち会っていて思うのですが、初めて赤ちゃんと対面する時、(血縁関係のある親子の一般的な出産シーンに比べて)養親さんの方が泣く頻度が高いです。

慈恵病院では、養子となる赤ちゃんが生まれる時は、養親候補のご夫婦に別室で待機していただいています。助産師が生まれた赤ちゃんを預けると、泣きながら抱っこされることが多いように思います。いかつい大男のご主人がボロボロ泣いていたこともありました。

理由はいくつかあると思います。ほとんどのご夫婦が長期間の不妊症治療を経験されています。それでも赤ちゃんを授かることがなく、特別養子縁組に至っています。数々の至難を乗り越えての赤ちゃんですから、感激もひとしおだと思います。

日本の社会では、いまだに特別養子縁組が広く受け入れられていません。アメリカと比較すると歴然です。「他人が産んだ子を受け入れる」というのは、日本ではまだ勇気のいることです。そんな中でも、特別養子縁組に飛び込んでくるご夫婦には、それなりの愛情や優しさがないとできません。

記事の「養子の7割は自己肯定感が高い」「養子の9割が養親の愛情を感じている」という傾向は、私に言わせると当然の感があります。
「かわいい、かわいい」と言われながら育っている養子さんが多いですので。
養親の会で集まりがあると、我が子の自慢話が多いとも聞きます。

切羽詰まったお母さんのお腹にいる赤ちゃんの行く末を心配することは少なくありませんが、数年後にニコニコした坊ちゃん、嬢ちゃんに成長した姿を見ると、ほっとします。特別養子縁組の素晴らしさ、ありがたさを感じます。

 

何人が捨てられ殺されているのか?

日本で何人の赤ちゃんが捨てられ、殺されるのでしょうか?

「こうのとりのゆりかご」に預け入れられる赤ちゃんの人数を想定する上で、その数字は重要です。しかし、現実には誰にもわからないものです。

「赤子の手をひねる」という表現に象徴されるように、殺人の中でも赤ちゃんの殺人が最も容易に行える事だと思います。そして完全犯罪が成立しやすい環境です。大人が殺されれば、その存在がなくなる訳ですから、「あの人がいなくなった」と騒ぎになります。しかし、人知れず妊娠し生まれた赤ちゃんについては、最初から存在自体を知られていないため、殺されても露見しにくいのです。

殺していなくても、赤ちゃんを人知れず遺棄するケースもあります。

自宅出産のケースでは、母親が、「産んだ赤ちゃんが死んでいた」と供述する事が少なくありません。立った状態で出産すると、落下した赤ちゃんが仮死状態になり、死亡に至る可能性があります。そのような赤ちゃんを地中に埋めてしまえば誰にもわかりません。ですから表に出ているよりも多くの殺人・遺棄が発生していることは間違いありません。

そこで、表に出ている数字なのですが、2つの統計があります。

ひとつは、警察庁生活安全局少年課が出している統計で、「出産直後の殺人(未遂を含む)および遺棄についての検挙件数」です。平成18年~27年では、年間6~17件となっています。ただ、これは検挙された件数ですから、露見していない事案や犯人がわからない事件が含まれていません。実際に発生している数字が何倍になるのでしょうか。

もうひとつの統計は、厚生労働省が調査した棄児数です。棄児は、「病院等の玄関先、敷地内、路上等に遺棄された児童であって、保護された時に親がわからない者」とされています。この調査は、平成18年度~20年度に行われたのですが、18年度27人、19年度55人、20年度49人でした。

これらの数字を見ると、少なくとも年間100人以上の赤ちゃんが遺棄され、殺されているのではないかと思います。

「こうのとりのゆりかご」の目的は、この数字を少しでも減らすことです。

赤ちゃんを犠牲者にしない、親を犯罪者にしない ために多くの人の支えで成り立っているシステムです。「こうのとりのゆりかご」が母子の悲劇を回避するために役立つよう、私たちは努力を続けていかなければいけないと思います。