能登半島地震支援にあたりまして

慈恵病院は1月12日に石川県七尾市の恵寿総合病院様で炊き出しをさせていただきます。この活動につきましては、ご批判をいただくこともあろうかと思いますので、私から趣旨と経緯をご説明さし上げるべきと思い、ご報告いたします。

【熊本地震の時よりひどい】

報道でご存知の通り、能登半島地震の被害は甚大でした。
熊本地震の時より過酷なものです。熊本地震が発生したのは4月16日でした。肌寒いとはいえ春でした。一方、能登地震が発生したのは1月です。
熊本市で雪が積もるのは年間1~2回あるかどうかですが、能登では積雪のシーズンです。先日ビニールハウスに避難なさっている方々の様子をニュースで拝見しましたが、寒さに耐えていらっしゃる方々のお辛さやご不安は如何ばかりかと思います。また、地震による直接死者数、住宅やインフラのダメージも熊本地震の時より深刻です。

【支援が低調】

日々流される被災地報道に熊本の人々は胸を痛めているとは思いますが、具体的な支援の動きは低調です。その最も大きな原因は支援の要となる道路の損壊状態のひどさだと思います。加えて熊本地震の被災経験者には支援の波が押し寄せたことによる困惑経験があります。

例えば、

・お米をたくさんいただいたものの、需給のバランスが崩れて保管場所の確保に困る。
・乾パンやカップ麺は、最初はありがたかったものの、その後は食べようとする者がいない。
・水道が通った後にもお水の支援をいただく。
・賞味期限の切れた食品のご寄付をいただく。
・支援者の車で渋滞した。
・支援の問い合わせの対応にマンパワーを削がれてしまう。

ご支援いただくお気持ちをありがたいと思いつつ、被災者と支援のミスマッチが苦い記憶となって身動きが取れずにいるように思います。

現時点で行政は能登地方に向かうことを控えるように呼びかけています。確かに、震源地の珠洲市を始め輪島市、能登町へのアクセスは限られていて、一般市民の走行は控えるべきです。しかし他にも支援を求めている地域はあるはずです。

【当院の困窮体験】

私は何かお手伝いをできないものかと日々考えてきました。
その背景には熊本地震の時に助けていただいた感謝があります。

熊本地震発生から数日後の当院の状況は厳しいものでした。
患者様だけでなく、余震を恐れて病院内に身を寄せる近隣住民の方々、職員の総勢約200名分の三食を賄う必要がありました。しかし食料の備蓄は早くも本震発生後2日で尽きる見通しとなりました。
多くの方々を病院内に抱えながら助けがなく、公的支援についても民間の中小病院は優先順位が低く助けにきてくれません。行政の方々も助けたくてもマンパワーが足りず、当院までには手が回らなかったのです。

絶望的な状況の中で救っていただいたのは民間の有志の方々でした。水が出ない中で大量の水を届けていただき、食べきれないくらいの食料をいただきました。確かに需給のミスマッチはありましたが、少なくとも何かしらをいただかなければ病院内の200人は立ち行きませんでした。

【発災12日目に熊本の地からできること】

私は熊本地震の時に受けたご恩返しをいずれしなければならないと考えてきました。能登半島地震もその一つです。
被災経験に基づき、ご迷惑をかけずに喜んでいただけるお手伝いは何かと考え、今回の炊き出しに決めました。炊き出しはバーベキューです。日々死者数が積み上げられていく状況の中でバーベキューを不謹慎と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私の結論はこれでした。

おにぎり、パン、カップ麺は被災直後には貴重です。
しかし(ベジタリアンでない限り)多くの人は日が経つにつれて肉や魚などの動物性タンパクが欲しくなります。
これは決して贅沢な欲求ではなく、当たり前の願望です。
しかし被災者は容易にそれを求めることができません。
「何を支援して欲しいですか?」と聞かれたときに、「肉を下さい」とは言いづらいのです。「助けてもらっているくせに、お前は何様?」と言われそうな気がして遠慮します。誰かがお節介をして「お肉を、お魚を食べてください」と言わなければいけません。

熊本地震の発生後、お肉に対する願望は病院内だけでなく地域に蔓延していました。本震から12日後の4月28日に当院は第1回の子ども食堂をバーベキューの形で開催しましたが、あの時大人も子どもも再会とお互いの無事を喜び、そして「久しぶりにお肉を食べられた」と喜びました。お肉にはお肉の力があると思います。能登半島地震発生から11日が経過し、当該地域では同様にお肉に対する思いが募っていることと思います。

【支援の経緯と計画】

・お手伝いできる被災地域は現状で七尾市です。交通の制限がない被災地域だからです。

・当院が産婦人科主体の病院ですので、産婦人科の医療機関を調査しましたところ、当院の看護部長が金沢市内の看護部長様を通じて恵寿会病院様にコンタクトを取らせていただくことができました。

・お肉を提供するに当りましては、患者様には当院で調理し真空パックの上、冷凍した牛丼の具(250~300人分)やビーフシチュー(250~300人分)を、職員様にはバーベキュー(500人分)、フライドチキン500個をお届けすることにしました。先様に調理の手間をかけなくて済む方法を模索した結果です。

・当院の経験を振り返りますと、恵寿会病院の職員の方々は心身共に疲弊されていると思います。医療者は笑顔をもって患者者様に接しなければいけません。お肉を口にしていただく事で次の1週間の元気の源にしていただければ、次の1週間で状況は好転するはずです。

・「珠洲や輪島で食べるものに困っている人がいるのにバーベキューとは何事か!」と憤慨なさる方もいらっしゃるかもしれませんが、七尾市は被災地であるだけでなく重要な後方支援地です。七尾市が元気でなければ奥能登の助けになりません。私たちは後方支援の後方支援としてお役に立ちたいと考えます。

・物品は熊本県合志市の(株)共同様に4tトラックで運んでいただきます。

・当院職員10名は新幹線で大阪まで向かい、その後はレンタカー2台で移動します。金沢市内に宿を取り、道路が比較的混雑しないと予想される午前4時に金沢を出発の上、お肉をご提供後には速やかに金沢に戻ります。七尾市滞在中は持参した簡易トイレを利用します。発生したゴミは熊本に持ち帰ります。

【関係の皆様に御礼】

今回のお手伝いは民間の中小病院単独では叶わない案件でした。
まずは(株)共同様にトラックのご提供をお願いし、快くお引き受けいただいたところから現実味を帯びてきました。同社はお肉の加工も手がけていらっしゃいますので、お肉の供給につきましても多大なご貢献をいただきました。

また多くの企業様が食品の供給に応じてくださいました。
大量かつ急な要請でしたのでご迷惑をおかけしたと思います。
中にはお金を請求なさらずに寄付としてご提供いただいた事例もありました。感謝と敬意をもってお名前をご紹介させていただきます。(五十音順)

上野デリック 様
臥璽廊(がじろう) 様とご友人様10名
ケンタッキー・フライド・チキン 様
三協グループ 様
白木商店 様
高手牧場 様
肉の大栄 様
藤本物産 様
ライズデザイン 様
らくのうマザーズ 様

令和6年1月11日 慈恵病院 蓮田健