カテゴリー別アーカイブ: 特別養子縁組

特別養子縁組あっせん審議会

慈恵病院で生まれた赤ちゃんを養親さんに託す前の審議会です。
医師、看護師、あっせん担当者などが集まって話し合います。
この会議で了承が得られれば、次に病院外委員の方々に諮ります。
そのレベルで同意を得て初めて、赤ちゃんは養親さんに託されます。

 

赤ちゃんと養親組み合わせは赤ちゃんや養親さんの人生を左右しますから、委員や担当者は真剣です。

ちなみに養親さんにとって、この段階では未だ「養親」ではありません。
赤ちゃんは「養子」ではなく、ご夫婦にとって「同居人」でしかありません。

赤ちゃんが養親さんに託された後、家庭裁判所の審判を経て、正式に養親・養子の関係になるまでさらに1年近くかかります。

責任を取って育てさせる

思わぬ妊娠に困った女子高校生が慈恵病院に相談の電話をくれたことがあります。

すでに彼女のお腹はふっくらしかけていましたが、親御さんはご存知ないとの事でした。

本人は、「親には絶対言えない」と言います。厳格なお父様の家庭で育った彼女には打ち明ける勇気がありませんでした。そこを説得して、親御さんを含めた3者面談をする事になりました。

その場でお父様がおっしゃったのは、「うちの娘には責任を取って育てさせます」との言葉でした。赤ちゃんの父親にあたる人物は同級生の男子高校生でしたが、すでに別れていて、生まれてくる赤ちゃんを育てる気持ちはありません。彼女にも進学したい気持ちが強く、育児には消極的でした。私はこの状況を心配しました。確かに、赤ちゃんの親となった責任として赤ちゃんを育てていくうちに、赤ちゃんに愛情を持てるかもしれません。しかし、そうでないケースも少なくありません。慈恵病院の電話相談には、「赤ちゃんを愛せない」「赤ちゃんが可愛くない」「育てるのが辛いので赤ちゃんポストに預けたい」と訴える女性の声が寄せられます。

「我が子を可愛くないと思わない母親はいない」と言う人がいますが、このような『母性神話』的な考えから外れるケースが多々あるのです。

もちろん、高校生に子育てができないと言っているのではありません。学校を退学して子育てをした高校生はいます。また少ないケースですが、学校に通いながら、親御さんに手伝ってもらい赤ちゃんを育てた学生さんもいました。彼女たちに共通するのは、赤ちゃんを育てたいという意欲です。イヤイヤながらではありませんでした。

高校を卒業して就職や進学をしていく同級生達が、コンパ、デート、旅行などを楽しんでいる時期に、子育て中心の生活を送るのには一定の覚悟が要ります。見方によっては、子育ては地味で忍耐を必要とする活動です。親となった責任をとって育てたものの、イヤイヤながら育てていては、いずれ我が子への言動に影響が出てきます。明らかな虐待がなくても、子どもが傷つく言葉が口をついて出てきかねません。「産みの親」「実の親」に育てられているとは言え、親にとって「お荷物」となってしまったら、むしろ子どもが可哀そうです。

先のケースではカウンセリングを重ねた結果、赤ちゃんを特別養子縁組に託す事になりました。女子高校生の親御さんも、本人にとって子育てが予想以上に負担の大きいことを理解なさったようです。

この高校生が出産した時、養子縁組を希望するご夫婦が病院に駆けつけて来ましたが、赤ちゃんと対面した時にご夫婦で涙を流して喜ばれました。

赤ちゃんにとってベストの選択は「実の親が責任を持って、愛情深く育てる」という事かもしれませんので、特別養子縁組は次善の策になります。しかし、このケースでは現実的にはベストの選択だったと思います。ご夫婦の涙を見て、そう思いました。

養子縁組:10~17歳の9割「養親の愛情を感じている」 – 毎日新聞

7割は自己肯定感高く 専門家、家庭で育つことの重要性指摘  生みの親でなく養子縁組した親と暮らす10~17歳の7割は自己肯定感が高く、9割は親の愛情を感じているとの意識調査結果を、日本財団がまとめた。国が全国の中学3年に実施した調査結果よりそれぞれ割合は高く、専門家は児童養護施設でなく家庭で育つことの重要性を指摘する。

情報源: 養子縁組:10~17歳の9割「養親の愛情を感じている」 – 毎日新聞

赤ちゃんが生まれた瞬間に、涙を流して喜ぶ産婦さんが時々いらっしゃいます。
たまに赤ちゃんのお父さんが泣くこともあります(奥さんは泣いていないのに)。

産婦人科医として分娩に立ち会っていて思うのですが、初めて赤ちゃんと対面する時、(血縁関係のある親子の一般的な出産シーンに比べて)養親さんの方が泣く頻度が高いです。

慈恵病院では、養子となる赤ちゃんが生まれる時は、養親候補のご夫婦に別室で待機していただいています。助産師が生まれた赤ちゃんを預けると、泣きながら抱っこされることが多いように思います。いかつい大男のご主人がボロボロ泣いていたこともありました。

理由はいくつかあると思います。ほとんどのご夫婦が長期間の不妊症治療を経験されています。それでも赤ちゃんを授かることがなく、特別養子縁組に至っています。数々の至難を乗り越えての赤ちゃんですから、感激もひとしおだと思います。

日本の社会では、いまだに特別養子縁組が広く受け入れられていません。アメリカと比較すると歴然です。「他人が産んだ子を受け入れる」というのは、日本ではまだ勇気のいることです。そんな中でも、特別養子縁組に飛び込んでくるご夫婦には、それなりの愛情や優しさがないとできません。

記事の「養子の7割は自己肯定感が高い」「養子の9割が養親の愛情を感じている」という傾向は、私に言わせると当然の感があります。
「かわいい、かわいい」と言われながら育っている養子さんが多いですので。
養親の会で集まりがあると、我が子の自慢話が多いとも聞きます。

切羽詰まったお母さんのお腹にいる赤ちゃんの行く末を心配することは少なくありませんが、数年後にニコニコした坊ちゃん、嬢ちゃんに成長した姿を見ると、ほっとします。特別養子縁組の素晴らしさ、ありがたさを感じます。

 

NHKで放送された特別養子縁組の実態

NHKの『クローズアップ現代』で、ネットによる特別養子縁組が取り上げられました。

2016年11月21日(月)放送。「生んでくれたら最大200万円援助」。今、ネットを活用した養子縁組のあっせんが波紋を広げている。実の親、養子を希望する夫婦から登録を受け付け、やりとりの大半をSNSで行うなど、手続きを大幅に効率化している。NPOには希望者が殺到する一方、「人身売買では」と批判の声も。子どもにとって“希望”と呼べる養子縁組をどう実現するのか?賛否渦巻く現場を取材する。

情報源: 賛否噴出 ネットで“赤ちゃん”をあっせん!? – NHK クローズアップ現代+

この番組では、千葉と大阪の特別養子縁組あっせん業者が登場します。両者ともに私が昨年接触を試みた人たちでした。

きっかけは、「赤ちゃんポスト」というキーワードです。
慈恵病院はBaby Boxの国際シンポジウムを開催するプランを立てています。
世界のBaby Box運営者をお招きして、各国の実情をスピーチしていただく予定です。
お互いに学び合い、助け合うきっかけになれればと願い企画しました。

世界のBaby Box運営者を調べる中で、「赤ちゃんポスト」というキーワードでインターネット検索を行ったのが、平成27年11月でした。ヒットしたのが、『インターネット赤ちゃんポスト』と『赤ちゃんポスト.com』です。前者が大阪、後者が千葉の団体です。

私なりに両団体の事を調べてみたのですが、素人のできることには限りがありました。共通していたのは、インターネットを積極的に活用していることでした。また、日本人男性とウクライナ人女性との結婚あっせんに関係しているところも共通点でした。特別養子縁組あっせんに参入したきっかけは、結婚あっせんにあったのかもしれません。両団体の代表が、以前から知り合っていた事と、お互いに対立関係にあった事は意外でした。特別養子縁組あっせんを行う前からトラブル関係にあったようです。

闇の部分が多いという印象が強かったのですが、今回、番組で多くの部分が明らかにされました。インタビューの中で、千葉の代表者のコメントが印象的でした。

「そもそも福祉の仕事は俺の仕事じゃない と思っていますよね。マッチングしてお金をもらうというのが、まあ基本かなというか‥」

私としては強い違和感を覚えるコメントですが、社会的養護の世界にも新たな波が押し寄せてくるのを感じます。