慈恵病院が運営する「こうのとりのゆりかご」は、望まない妊娠をした女性が
赤ちゃんを遺棄したり、殺したりする事を防ぐためにスタートしたシステムです。
赤ちゃんを匿名で預けることができますので、主に妊娠や出産の事実を知られては困る女性が対象になります。
「こうのとりのゆりかご」のモデルとなったのはドイツのBaby Boxです。
そのドイツでは内密出産の試みが進められています。
また、フランスやオーストリアには匿名出産という制度もあります。
「こうのとりのゆりかご」の是非が議論になる時、内密出産を引き合いに出される事は少なくありません。そこで、今回は匿名出産と内密出産についてご説明したいと思います。
匿名出産
匿名出産とは、女性が自分の身元情報を明らかにしないまま病院で出産するものです。
ドイツ、フランス、オーストリア、イタリアなどで行われていますが、日本にはありません。フランスでは次のようなシステムを採用しているところが多いそうです。
まず女性が出産のために入院する際、本人の身分証書は封筒の中に入れ開封できないようにします。そして封筒を病院職員に預けます。この封筒は女性が死亡した場合にしか開封できない事になっています。お産が終わり、女性が退院する時に、封筒は未開封のまま返却されます。赤ちゃんの多くは養子として迎え入れられます。
赤ちゃんの母親の身元がわからないという点では、「こうのとりのゆりかご」と同じです。
ですから、「子どもにとって出自を知る権利が損なわれる」という事で反対意見もあります。
ただ、「こうのとりのゆりかご」では自宅やホテル、車の中など、病院外で人知れず出産する事が多々ありますが、匿名出産では病院で出産する訳ですから、出産の安全性は高まります。
内密出産
匿名で出産するという点で、内密出産は匿名出産と同じです。しかし、内密出産の場合、子どもが16歳になった時点で行政に実母の身元を照会することができます。
ただ、身元情報を明かすことで実母が危機的状況に陥る可能性がある場合には、実母が異議申し立てをする事ができます。この場合、情報を開示すべきかどうかについては家庭裁判所が判断を行います。
ドイツでは内密出産を社会制度として支えるため、2013年に法律が制定されました。出産費用は行政が負担します。
子どもが自らの出自を知ることができる可能性が残る点では、内密出産は匿名出産より評価されているようです。しかし、妊娠・出産の事実を絶対に知られたくない実母にとって、内密出産は必ずしも助けになりません。16年後には秘密が明かされるかもしれない心配がありますので。
日本では、「こうのとりのゆりかご」を廃止して内密出産に移行すべきとの意見が出ることもあります。次回のブログでは、この事を取り上げてみたいと思っています。