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東京の赤ちゃんポスト・内密出産から1年 #10新たなビジネスモデル?

昨年の春にスタートした頃、賛育会病院の内密出産の料金は60万円以上とされていました。しかし昨年末に当院を訪れた女性は、賛育会病院から、「外来で初診の検査は6万円の一括払い、自然分娩は80万円以上、帝王切開になれば100万円以上の自己負担が条件」と説明を受けたそうです。

この女性は「とても支払えない」と絶望して慈恵病院に来ました。来院時に上の血圧が170~180台と高く、尿タンパクや浮腫もありましたので、重症の妊娠高血圧症候群と診断し緊急帝王切開を行ないました。幸い母児ともに事なきを得ましたが…。

かつて賛育会病院は私に「賛育会は社会福祉法人であり、その根幹に無料・低額診療が責務とされている法人です」とメッセージを送られました。一般病院ならともかく、社会福祉法人と内密出産の看板を掲げていらっしゃるのなら、お金の計算より、まずは妊婦さんの保護を優先していただくべきです。また無料・低額診療を謳いながら、半年で60万円から80万円へと20万円の値上げを行なうのも理解に苦しみます。東京都の平均出産費用は62万5000円と言われていますから、賛育会病院での内密出産は低額診療ではなく、むしろ高額診療になってしまっています。

先日、賛育会病院が高額の寄付を受けたとの報道を目にしました。また、別の報道では賛育会病院への寄付は順調に集まっているとのインタビュー記事がありました。内密出産希望者に高額の診療費を請求しながら、一方で社会からは寄付を得るわけですから、賛育会病院の内密出産は社会貢献ではなく、利益を生み出す新たなビジネスモデルです。

これは経営的には魅力あるものですから、国内の他の産婦人科施設でも実施可能かもしれません。しかし内密出産を求める女性たちの実情を踏まえず、ほとんどの希望者には利用できない内密出産は看板だけのもので、運営者の独善的なシステムに見えます。私はこのような内密出産が全国に広がることを懸念しています。

東京の赤ちゃんポスト・内密出産から1年 #9 赤ちゃんへの悪影響

内密出産を求めて来た女性が匿名性を撤回することは子どもの利益になるように見えますが、事はそのように単純ではありません。

生みの母親が匿名性を撤回する場合、その動機のほとんどは「自分で育てたくなったから」です。中には身元を明かして、産んだ子どもを自分の戸籍に入れる手続きを行い、その上で特別養子縁組に子どもを託す事例もありますが、これは少数です。

内密出産を求めた女性が子どもを育てるときに、実家の親御さんがこれを支援してくれれば、子育ては比較的軌道に乗るのですが、これもまた少ない事例です。当院での内密出産を振り返ると、生みの母親が一人で子どもを育てる」場合、そのほとんどが上手くいかずに育児を断念し、赤ちゃんは乳児院や里親の元で暮らすことになりました。その後に母親が子どもを迎えに来ることはないですし、特別養子縁組に託すこともありません。その子どもは周りの大人たちから「お母さんはいつか迎えに来る」と言われながら、それでも迎えに来ない親を待ち続ける人生を歩むことになります。子どもとしては期待が失望に変わり、いずれ恨みになりかねません。

私はこのような事例を積み重ねるうちに、「こんなことになるくらいなら、生みの母親が匿名でも構わないから、最初から特別養子縁組にしてもらい、大事にしてもらえる育ての親の元で暮らしてもらう方が子どもにとっては幸せだった」と思うのようになりました。

しかし冷静に考えれば、これは必然とも言える流れです。内密出産を求めてくる女性たちは、妊娠する前から困り事を抱えていることがほとんどです。そこには発達症(発達障害)や境界知能などの特性が関係しています。それでも実家の親御さんがそれを支えてくれれば大きな問題にはなりません。ところが内密出産を求める女性の場合、虐待、過干渉、親による子どもへの極端な無関心などから、親子関係が悪く、心理学で言うところの愛着障害を来しています。親の助けがない生い立ちにあるのです。

自らの生活さえうまくコントロールできない女性が、赤ちゃんを産んだ途端に人が変わったようになって生活を立て直すのは困難です。子育ては親に喜びをもたらすことがあるかもしれませんが、一人で生活するときと比べると間違いなく負担が増えます。出産や子育てによって仕事は制限され収入は減ります。子連れでは気分転換の食事会や旅行などもままなりません。このような経験をしている世のお母さん方には自明の理でしょう。

内密出産を求めて来た女性に匿名性を撤回させて子どもを育てるように仕向けることは、病院にとっても、児童相談所を始めとした行政にとっても都合の良いことかもしれません。しかし、それは子どもが愛着障害を来し、自己肯定感の低い人間になってしまいかねない成育環境に子どもを送り込むことにもなります。これは行政を始めとした社会的養護の関係者が大事にする「子どもの最善の利益」に反することです。

 

東京の赤ちゃんポスト・内密出産から1年 #8 悪影響

賛育会病院の内密出産で問題なのは、「高額な費用」と「匿名性保障の軽視」です。

賛育会病院の対応で懸念されることがいくつかあります。

【赤ちゃんポストに流れてしまう】

有料の内密出産は女性たちにとってハードルが高すぎます。賛育会病院が求める60万円以上(最近は80万円以上)のお金を用意できるのなら、女性の多くは人工妊娠中絶をしていたはずです。内密出産を求める女性のほとんどは、そのようなお金を持っていませんので、匿名で出産しようとすれば、病院外で一人で産むしかありません。

お金を出せなくて内密出産をあきらめる人の中には、赤ちゃんポストに頼る人がいます。実際、過去には慈恵病院でもそのような事例がありました。早産の可能性や感染症がある女性に医学的理由から、「あと数週間待ってからお産に持ち込みましょう」と説明したことがあります。ところが早く仕事を再開しないと借金を返せないと焦った女性は、「内密出産ができないなら、1人で産んで赤ちゃんを赤ちゃんポストに預けよう」と考えて、実際にそれを試みました。彼女は陣痛の痛みに耐えかねて、結局救急車を呼ぶことになったのですが。

医療関係者がいない中、一人で出産するのは危険です。それを回避するために、匿名性を保障して病院内で出産してもらおうと始めたのが内密出産でした。

東京で内密出産ができるようになったのは朗報でした。しかし実際には利用できないため、今後1人で産み、赤ちゃんを東京の赤ちゃんポストに預けようとする女性が増えてしまうのではないかと心配します。

【事件を誘発しかねない】

内密出産希望の女性の中には、お腹が大きくなっても病院を受診しない人が多いです。「病院に行かなければいけない」「誰かに相談しなければいけない」とは思っても、なかなか一歩を踏み出せません。これは、物事を「できる人」には理解しがたい行動かもしれませんが、この女性たちが抱える成育歴や特性がそうさせてしまうのです。

そうこうしているうちに出血やお腹の張り・痛みなどの症状が始まり、女性は病院に駆け込むのですが、費用や匿名性の保障の問題で賛育会病院を頼れないとあきらめてしまった時が問題です。彼女たちの中には、「賛育会病院に行けば内密出産をさせてくれる」と思い込んで病院に向かう人もいますから、土壇場になって梯子を外すような対応は危険です。

陣痛がありながら賛育会病院での出産をあきらめて、近くの公園や駅のトイレで出産し、その後事件になることがないとは言い切れません。一人で出産しても、その後に冷静になり救急車や赤ちゃんポストを頼れる人は良いのですが、出産直後にパニックになる人がいます。発達障害や境界知能の背景から想定外の事態に対応する能力に乏しい人はパニックになり、赤ちゃんを遺棄したり、殺したりしてしまうのです。

【内密出産の信用を失う】

匿名佐藤さん」の事例のように、賛育会病院に対する不信感を募らせた女性は誰も信用できなくなり、慈恵病院の提案にも応じてくれません。母子の命と健康を守るために始めた私たちの支援も手詰まりになってしまいます。

社会の多くの人は賛育会病院の内密出産と慈恵病院の内密出産は同じものだと見ているようです。「お金を払えなければ内密出産はできない」という評判が広まり、内密出産の信用が低下すれば、慈恵病院も信用されなくなり、内密出産で保護できたはずの母子も助けられなくなる恐れがあります。

【匿名性の軽視】

内密出産を求める女性の「妊娠・出産を知られたくない」気持ちは、世間一般の人が考えている以上に強いものです。それが動機で産んだ我が子を遺棄したり殺したりする女性もいるくらいですから、支援者が女性たちの気持ちを尊重しなければ、赤ちゃんに被害が及びかねません。

赤ちゃんポストも内密出産も「親への匿名性の保障と引き換えに赤ちゃんの命と健康を守る」のがコンセプトのはずです。しかし賛育会病院での内密出産を希望した女性たちから聞こえてくる声は、そのコンセプトから外れる実情を物語っています。

「救急外来の看護師さんから『顔写真付きの身分証明書がないと内密出産はできない』と言われて所持品検査並みにバッグの中身を探られた」

「外来で看護師さんから普通に本名で呼ばれた」

「大部屋の病室で、他の入院患者さんもいるのに病院職員が入れ替わりやってきて、『内密出産でしょ』と言われるのが辛かった」

ドイツでも慈恵病院でも、内密出産で本名を知っているのは、ただ1人の相談担当職員だけです。しかし賛育会病院では、多くの病院職員が内密出産の本名を知っているのが通例になっているようです。

女性たちは自らの妊娠・出産を家族に知られてしまえば人生が終わるという必死の思いで病院を頼ります。それに応えられなければ、日本の内密出産における信頼関係は失われます。

賛育会病院で内密出産をした女性の一人は出産費用を分割払いしているそうです。お金を返すために働かねばならず、大学を退学しました。それが賛育会病院の方針と言ってしまえば身も蓋もありませんが、少なくとも私や慈恵病院にはできません。

内密出産の看板を掲げる病院の使命は母子を守ることにあります。病院への借金返済のために、女性をこれまで歩んできた人生の軌道から脱線させてしまう権限は病院にはないと思います。少なくとも、人生の岐路に立っている女性の出産費用を免除するくらいの原資は寄付金で賄えるはずです。

お話しが横道にそれてしまいましたが、内密出産後に費用を分割払いする女性の場合、その女性の本名、住所、連絡先などは賛育会病院の事務職員にもバレているのだと思います。匿名では借金はできませんので。「ひょっとすると賛育会病院は、連帯保証人として実家の親御さんの情報も求めているのかもしれない」など疑念は尽きません。

その意味では、賛育会病院は内密出産の料金表や分割払いの手続きをホームページなどで明らかにすべきと思います。

私はかつて賛育会病院に次のようなメッセージを差し上げました。

「内密出産をするには赤ちゃんポストの4倍、5倍あるいはそれ以上のマンパワーや時間がかかります。内密出産はおやめになった方が良いです。仮に内密出産を始められるとしても、まずは赤ちゃんポストを2~3年やってみられて、その経験を基に内密出産の可否をお決めになったらどうですか?」

しかし、この提案は聞き入れられないまま賛育会病院の内密出産が始まってしまいました。

 

東京の赤ちゃんポスト・内密出産から1年 #7内密出産を断念させることは難しくない

内密出産を希望する女性に、これを断念させることは難しくありません。

日本には内密出産の定義やルールはなく、各施設が独自に基準を設けています。佐藤さんの事例のように「彼が妊娠を知っているから内密出産はできない」という理屈を盾にすれば、相談した女性はそれに従うしかありません。その理屈は慈恵病院基準では屁理屈ですが。詳しくは下記をご参照ください。

賛育会病院で内密出産希望だった佐藤さんとのやり取り」の3頁

賛育会病院の取り組みに対する意見書」の4頁

また、このような女性たちの中には他人の顔色をうかがって、相手に合わせる言動をとる人が少なくありません。これは愛着障害や低い自己肯定感を抱えた人にしばしば認められる傾向です。「自分が我慢すればいい」という発想で難所をくぐり抜けてきた人は、自分が納得していなくても他人の意見や指示に従ってしまいます。

病院関係者や行政関係者、妊娠相談窓口の担当者が「大人の正論」や理屈を並べ立てれば、専門知識のない女性たちに勝ち目はありません。

あるいは「あなたなら生活保護や母子寮(母子生活支援施設)など、社会資源を利用すれば赤ちゃんを自分で育てられるし、生みのお母さんに育ててもらえれば赤ちゃんもうれしい」と輝かしい未来を示して、女性をその気にさせることもあります。

こうして女性の匿名性を撤回させることに成功した大人たちは、「きちんと説明すれば、匿名にしなくても済む」と考えているようですが…。

次の記事では、その悪影響についてご説明します。

 

 

東京の赤ちゃんポスト・内密出産から1年#6「9割が内密出産を取りやめ」

熊本日日新聞が令和7年11月6日に出した記事には、これまで数十人の女性が内密出産を希望して賛育会病院に相談し、そのうち約9割が内密出産を取りやめたとあります。同様の情報は読売新聞にも掲載されていました。

9割の女性たちが、その後にどのような経過をたどったかの情報はありませんが、名前を明かして賛育会病院で出産した人もいれば、連絡が取れなくなった人もいるでしょう。その連絡が取れなくなった人の中には慈恵病院で内密出産をした人もいました。

心配なことは内密出産をあきらめて自宅で出産した人です。赤ちゃんが賛育会病院の赤ちゃんポストに無事預けられていれば良いのですが、自宅出産時に母児にトラブルが発生したり、事件になってしまったりすることを心配します。

慈恵病院が女性に内密出産の断念を促すのは1割くらいです。

当院は母体の合併症や、妊娠35週未満の早産事例など、医学的に産婦人科単独では対応できない場合に内密出産を断念していただいています。

また遠方にいる女性に陣痛が始まった場合も、当院到着前に出産になってしまうかもしれませんので、身元を明かして近くの病院に行っていただいています。その他、匿名のままでは女性が再び犯罪に巻き込まれそうな場合に、女性に名前を明かしてもらうようにお願いした事例もありました。

内密出産は母児の命と健康を守ることに存在理由がありますので、内密出産を強行することで母子の健康に害が及ぶようでは本末転倒です。しかし、そのような状況でなければ、可能な限り女性たちの要請に応えて内密出産を実施するのが当院の方針です。

 

東京の赤ちゃんポスト・内密出産から1年 #5 東京都や墨田区が沈黙する訳は‥

私が令和7年8月20日に東京の各機関に提出しました、「仮名佐藤さんの事例」では、内密出産を求めて賛育会病院を訪れた佐藤さんに対して、病院側はおとり商法とも言える対応をしました。行政はこれを指導し是正させる立場にあるはずですが、むしろ賛育会病院を手助けし、佐藤さんに脅しのような言動をとりました。

これには事情があります。

行政は、「女性が匿名のまま出産すれば、将来、子どもの出自を知る権利の問題で行政が責めを負うのではないかという懸念を持ちます。できるだけ内密出産をしてもらわない方が助かるのです。

赤ちゃんポストの場合は、赤ちゃんが預けられ女性が立ち去った後ですから、女性に名前を明かすように説得することが難しくなります。しかし内密出産の場合、出産前に女性と接触する時間的余裕があれば、匿名を撤回してもらうチャンスがあります。女性としても、出産という切実な目標を達成するためには病院や行政を拒否できない立場にありますから、相談に応じないわけにはいきません。

また別の事情も考えられます。内密出産や赤ちゃんポストの赤ちゃんが増えてしまうと、東京の乳児院や里親、特別養子縁組などの受け皿が枯渇してしまいます。東京に限らず、日本社会では虐待事例が数多く発生していて、保護しなければならない子どもは、赤ちゃんポストや内密出産だけではありません。なるべく赤ちゃんポストや内密出産を少なくして、産んだ女性には自分で子どもを育ててもらう方が行政としても都合が良いのです

 

さらに事情を言えば、東京都外から賛育会病院を頼る女性については、身元を明かしてもらった方が児童相談所を始め東京都の行政は助かります。行政サービスは産んだ母親の住所がある自治体が提供するのがルールです。

例えば赤ちゃんポストや内密出産を利用した女性の住所が埼玉県と判明すれば、託された赤ちゃんは埼玉県の児童相談所が保護することになり、同県の児童相談所職員が赤ちゃんを迎えに来ます。東京都の負担を他の都道府県に分担してもらえる訳です。このような事情からも、東京都としては女性たちに名前と住所を明かしてもらうように働きかけます。

公務員は法的根拠がなければ行動できない立場にあります。現状の法律や社会福祉システムは、内密出産には十分な対応ができない体制ですから、現場の公務員は苦慮します。現場の公務員の方々が安心して取り組める法律ができなければ、日本の内密出産は、「できるだけ内密出産をさせないシステム」になってしまいます。

 

東京の赤ちゃんポスト・内密出産から1年  #4 なぜ無料の内密出産をしなければならないのか?

当院の内密出産を無料で提供する方針を決めたのは私です。「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)の運営をしながら、ここを頼る女性たちが経済的に苦しいことを知っていましたので無料にしました。

ドイツの内密出産やフランスの匿名出産は公費によって無料で提供されていますが、日本では公費投入はかないませんので病院の負担になります。

この方針を採用したのは、私がお人好しだからではありません。

私には裁判経験に基づく危機感があるから無料の内密出産を堅持しています。

私は4年前から新生児の死体遺棄や殺人の裁判に関わり、これまで12件の裁判で意見書作成や法廷での証言をしてきました。このような事件では、産んだ母親が我が子の口をふさいだり、首を絞めたり、風呂の中に沈めたりして殺してしまうシーンが調書に記録されています。また裁判資料には腐敗した遺体の写真があります。中には体のほとんどの部分が何らかの動物に食いちぎられてしまった遺体もありました。

このような悲惨な状況を見れば、産んだ母親が残酷で冷徹な人間に見えてしまいますが、実際はそうではありません。他人の顔色をうかがいながら生きているイメージの方が当てはまりやすい女性たちです。彼女たちは親による過干渉や虐待などを背景として愛着障害を抱えていますし、境界知能や発達症(発達障害)を高頻度に認めます。

考えてみれば、医療関係者がいない中で、一人で出産するとか、産んだ我が子を殺す、遺棄するなどの行為は非常識なものです。私が拘置所や留置所で、「どうしてここまでしなければならなかったのですか?」と尋ねると、ほとんどの被告女性が「妊娠・出産を親に知られてしまうと、親から見放される、追い出される、縁を切られる」と答えます。

安心できる親子関係を築いている人に信じられないかもしれませんが、実家の親御さんに知られたくないばかりに無謀、非常識と思える行為に走ってしまうのです。

事件に至ってしまう女性たちは、

・ 陣痛の痛みによるストレス(時に指を切断する痛みに匹敵する)

・ 一人で出産することの不安

・ 出産後の疲労や貧血

・ 産んだ赤ちゃんの存在を知られてしまっては人生が終わるという恐怖心

からパニック状態になり、出産後に我が子を殺したり遺棄したりしてしまいます。

このような事態を回避するには、女性がパニックになる前、つまり陣痛が始まる前に保護することが重要です。内密出産の意義はここにあります。

内密出産を実施するには、先に述べた消耗品代や食費の実費負担が病院に発生しますが、私は数万円で母子の命と健康が確保できるのなら安い買い物だと思います。これは裁判を通じて新生児の遺棄や殺人の実態を知った人間だから感じることができる内密出産のありがたみです。

 

東京の赤ちゃんポスト・内密出産から1年  #3 内密出産自体には、それほどお金はかかっていない

私は、内密出産で発生する赤字を次のように考えています。

例えば1日に100杯のラーメンを売り上げるラーメン店なら、そのうち1杯は貧困でご飯を満足に食べることができない子どもに無料で提供しても良いのではないかと。

100杯中の1杯にかかる人件費、食材費、光熱費は、それだけで店の経営を圧迫する額ではありません。1杯のラーメンを提供することは、99杯を作りお客さんに提供する作業の片手間にできることで、目に見える形の負担は1玉の麺代くらいです。スープやチャーシューについては、1杯のためだけに作るものではありませんので、100杯の中のオマケ的なコストにとどまります。

しかし、これを1杯の価格として捉えれば、1日700円、1ヶ月で21000円の損と見なすこともできます。これが経営者としての真っ当な見方です。ボランティアや人助けに強い関心と意欲がなければ、毎日1杯のラーメンを無償で提供することは一般的ではありません。

慈恵病院では月に100件以上の出産があり、月に1~2件の内密出産があります。

100杯売り上げるラーメン屋さんのようなイメージです。

当院の分娩室には常時3~6人の産婦さんがいらっしゃいます。内密出産の産婦さんは、この中の1人ですから、他の産婦さんへの対応の合間に、内密出産事例の対応をすると考えれば、実際の負担は大きくありません。点滴バッグ、縫合の針や糸などの消耗品の出費、産婦さんの食費などは病院の持ち出しですが、寄付もいただいていますし、そのレベルをとやかく言うのなら内密出産を運営すべきではないと思います。

 

東京の赤ちゃんポスト・内密出産から1年 #2赤字を出さない内密出産?

これまで私に寄せられた情報を元に推測しますと、賛育会病院の内密出産では「できるだけ赤字を出さないこと」が最優先になっているようです。その背景には、赤ちゃんポストと比べて赤字幅を大きくしてしまう内密出産のコスト構造があります。

赤ちゃんポストの場合は預けられた赤ちゃんは入院になるものの、その後は乳児院に移ります。東京の乳児院が一杯にならない限り、赤ちゃんが病院に居る期間は短いですから、病院側の負担は大きくありません。また入院期間中は行政から補助金が出ます。熊本の場合、出生日~5日目は日額6438円、6~30日目は日額1348円、31日目以降は日額2188円と決して多くはないのですが…。

赤ちゃんポスト単独では大きな赤字を生みません。

ところが内密出産の場合は、妊婦健診費用、分娩費用、分娩後の入院費用などのお金がかかります。自然分娩なら分娩費用が60万円以上かかりますし、帝王切開なら100万円以上になります。女性に内密出産を許してしまえば、その度に病院には赤字が積み上がります。

しかし病院側が内密出産を認めず、女性に名前を明かしてもらい健康保険を使ってもらえば、出産一時金の50万円が病院に入りますので赤字は縮小できます。名前を明かすところまでこぎ着ければ、50万円以外の自己負担分を実家の親御さんに払ってもらったり、女性本人に分割払いをしてもらったりすることも期待できます。内密出産を認めない方が病院には経済的メリットがあるわけです。また匿名性を撤回させることができれば、「内密出産が子どもの出自を知る権利が損なっている」と病院が批判されるようなこともありませんので、メリットが多いのです。

しかし、その方針は母子にリスクを負わせることになります。
このことについては別の記事#8#9でご説明したいと思います。

東京の赤ちゃんポスト・内密出産から1年 #1 ゼロ回答

私が令和7年8月20日に東京に提出した質問状への回答書は同年11月に各機関からいただきました。

早くにご報告すべきところが、大幅に遅れてしまいました。

本当に申し訳ありません。

東京都福祉局子供・子育て支援部回答書①

東京都福祉局子供・子育て支援部回答書②

墨田区役所回答書

賛育会病院回答書

ご覧のようにゼロ回答です。

質問状には内密出産を利用する女性にとって確認しておきたい重要な項目が含まれていましたが、それらにも回答はありませんでした。

回答書の文面は一見すると「無視のメッセージ」のように見えますが、その裏には各機関の苦しい内部事情が窺えます。東京の関係者は口をつぐむしかないのだと思います。
次の記事から内密出産の実情をお伝えします。