東京の赤ちゃんポスト・内密出産から1年 #5 東京都や墨田区が沈黙する訳は‥

私が令和7年8月20日に東京の各機関に提出しました、「仮名佐藤さんの事例」では、内密出産を求めて賛育会病院を訪れた佐藤さんに対して、病院側はおとり商法とも言える対応をしました。行政はこれを指導し是正させる立場にあるはずですが、むしろ賛育会病院を手助けし、佐藤さんに脅しのような言動をとりました。

これには事情があります。

行政は、「女性が匿名のまま出産すれば、将来、子どもの出自を知る権利の問題で行政が責めを負うのではないかという懸念を持ちます。できるだけ内密出産をしてもらわない方が助かるのです。

赤ちゃんポストの場合は、赤ちゃんが預けられ女性が立ち去った後ですから、女性に名前を明かすように説得することが難しくなります。しかし内密出産の場合、出産前に女性と接触する時間的余裕があれば、匿名を撤回してもらうチャンスがあります。女性としても、出産という切実な目標を達成するためには病院や行政を拒否できない立場にありますから、相談に応じないわけにはいきません。

また別の事情も考えられます。内密出産や赤ちゃんポストの赤ちゃんが増えてしまうと、東京の乳児院や里親、特別養子縁組などの受け皿が枯渇してしまいます。東京に限らず、日本社会では虐待事例が数多く発生していて、保護しなければならない子どもは、赤ちゃんポストや内密出産だけではありません。なるべく赤ちゃんポストや内密出産を少なくして、産んだ女性には自分で子どもを育ててもらう方が行政としても都合が良いのです

 

さらに事情を言えば、東京都外から賛育会病院を頼る女性については、身元を明かしてもらった方が児童相談所を始め東京都の行政は助かります。行政サービスは産んだ母親の住所がある自治体が提供するのがルールです。

例えば赤ちゃんポストや内密出産を利用した女性の住所が埼玉県と判明すれば、託された赤ちゃんは埼玉県の児童相談所が保護することになり、同県の児童相談所職員が赤ちゃんを迎えに来ます。東京都の負担を他の都道府県に分担してもらえる訳です。このような事情からも、東京都としては女性たちに名前と住所を明かしてもらうように働きかけます。

公務員は法的根拠がなければ行動できない立場にあります。現状の法律や社会福祉システムは、内密出産には十分な対応ができない体制ですから、現場の公務員は苦慮します。現場の公務員の方々が安心して取り組める法律ができなければ、日本の内密出産は、「できるだけ内密出産をさせないシステム」になってしまいます。