内密出産スタート!?

報道では内密出産がセンセーショナルに取り上げられているように思います。今にも多くの内密出産が発生するかの様です。しかし実際に内密出産や匿名出産になるケースは年間に1~2件ではないかと思います。
しかも、その時期も不明です。
来月かもしれませんが、再来年かもしれません。

妊娠相談の中で、私が最も危機感を感じるのは、「誰にも知られずに赤ちゃんを産む」と言う妊婦さんです。これを孤立出産と呼びますが、母体にとっても赤ちゃんにとっても危険な行為です。

お産の痛みは手の指を切断する痛みに匹敵するとも言われています。
それを誰にも知られずに一人で完遂するには相当な覚悟が要るはずです。
それをしてしまう妊婦さんは、(少なくとも本人にとっては)切羽詰まった事情を抱えています。

「絶対に知られたくない、困る!」のです。

これまで慈恵病院では匿名を前提とした分娩をお断りしていました。
この方針は慈恵のみならず日本国内の産婦人科すべてに当てはまることです。
しかし、これでは「事情を抱えた妊婦さん」との距離を縮めることができません。

「それならいいです」ということで、以後連絡が途絶えてしまったケースが少なからずありました。一方、乳児の遺棄・殺人のニュースが流れると、「あの時のケースではなかったか?」と心配します。

孤立出産をしてしまいそうな女性には、まず彼女たちを認めて受け入れることが大事です。母子の安全が最優先です。

「子どもが自分の親を知ることがないままなのは、かわいそう」
「安易な育児放棄を助長する」
「望まない妊娠をしたのだから、責任をもって名前を明かし育てるべき」

このようなご意見は「こうのとりのゆりかご」と同様に内密出産や匿名出産にも付いて回るでしょう。しかし日本の社会が彼女たちに歩み寄らなければ、危険な孤立出産へ走らせることになり、結果として赤ちゃんの不利益につながります。

最近は内密出産という言葉が一人歩きしているようにも思えますが、目指しているのは匿名妊婦さんの受け入れです。これは内密出産とは別です。つまり最初は匿名でも、理解して安心すれば匿名を撤回する妊婦さんがいるはずです。実際に内密出産で先行するドイツではその傾向が認められています。

彼女たちを認め、受け入れ、助ければ、彼女たちの多くが安心して心を開いてくれるものと信じています。

もちろん一部の妊婦さんは最後まで匿名を貫き通すかもしれません。
それでも彼女たちを信じて、安全な出産を実現させるべきではないでしょうか。

ドイツのように法整備がない中での内密出産や匿名出産には、多くの問題が待ち受けていると思います。試行錯誤の作業だと思いますが、行政の方々にも相談を重ねながら、新たなセーフティーネットの構築を目指していきたいと思います。